岸田稚魚 (きしだ ちぎょ)
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生涯
岸田稚魚(きしだ ちぎょ)は大正7年(1918年)1月19日、東京都北区に生まれた。本名は順三郎。父・録三郎は龍川の俳号で増田龍雨の門下であり、家は代々酒屋であった。父は俳誌『野梅』の同人であり、兄も『馬酔木』に投句するなど、俳句は身近な存在であった。稚魚が俳句に携わりはじめるのは18歳の頃からである。
昭和11年(1936年)に巣鴨商業学校を卒業した。昭和14年(1939年)、のちに書家として活躍する兄・稚候に連れられ『馬酔木』(主宰:水原秋桜子)の新年句会に参加し、翌年11月から『馬酔木』に投句を始めた。昭和15年(1940年)、結核の療養のため茅ヶ崎の南湖院に入院し、「療養知識」の俳句欄(選者:石田波郷)に投句を始めた。南湖院では俳誌『砂』を編んでもいたという。昭和18年(1943年)、波郷の主宰誌『鶴』に参加した。昭和20年(1945年)、東京・神田淡路町で開かれた句会の席で波郷と初対面し、「投げ出せし大足拝す夜寒かな」の一句をつくった。後にこの一句について、「初対面の波郷先生は、病やつれはしていたが、しかしたのもしい師であった」と自註している。
昭和23年(1948年)、『鶴』休刊に伴い、波郷の命により加藤楸邨主宰の『寒雷』に移った。加藤楸邨は波郷とともに人間探求派と呼ばれた同志である。昭和28年(1953年)に『鶴』が復刊すると、翌年『鶴』に復帰した。『鶴』復刊の巻頭言にある「俳句は生活の裡に満目季節を望み、蕭々又朗々たる打座即刻のうた也」に感動し、青春を賭けた。昭和43年(1968年)、草間時彦、加畑吉男などと超結社の勉強会「塔の会」を結成した。昭和51年(1976年)に同人誌「琅玕」を創刊し、翌年に結社誌「琅玕」を創刊して主宰となった。外川飼虎、椎名書子などが参加した。
昭和63年(1988年)11月24日、脳血栓で死去した。享年70。萩寺とも呼ばれる東京都江東区の龍眼寺に眠る。戒名は翔鶴院稚魚居士。「琅玕」は手塚美佐が継承した。門下に岡本高明、小島健、吉野裕之などがいる。
俳句歴
岸田稚魚の二十代の多くの時間は療養生活に費やされた。南湖院を去ったのは昭和18年(1943年)であり、この年に波郷の「風切宣言」に感銘を受けて波郷を師事するようになった。俳人稚魚にとってこの出会いは決定的な契機となり、新たな局面を迎えることになった。
稚魚は昭和18年に南湖院を退所した際、「東京へ歩いてゐるやいぬふぐり」の句を詠み、後に自ら「三年余の南湖院での療養生活に見切をつけて帰宅することにした。家郷に帰れるという心の弾みと、戦時下のこれからの生活の不安が交錯した」と記している。この句は昭和26年(1951年)刊行の句集『雁渡し』の巻頭句であり、稚魚にとって転生のための一書となった。
師の波郷は「俳句は私小説である」とする境涯俳句を主張し、作者の人生・境涯に根ざした俳句が大事であるとして、病気・逆境・貧困を詠うことをすすめた。花鳥諷詠ではなく、人間探求派と呼ばれた人生俳句の流れである。稚魚の作風は『鶴』の特色である境涯性だけに留まらず、洗練された都会的なスマートさや豊かな韻律性を特色とするものであり、師の掲げた松明を継ぎながら自分の特色を加えて新たな城を築いた。
句集は昭和26年(1951年)の『雁渡し』から始まり、『負け犬』『筍流し』『雪涅槃』『萩供養』『花盗人』、昭和64年(1989年)の『紅葉山』まである。選集としては『岸田稚魚集』『花神コレクション 岸田稚魚』がある。昭和32年(1957年)に第3回角川俳句賞、昭和48年(1973年)に第12回俳人協会賞を受賞した。
その他の特記事項
稚魚は昭和61年(1986年)の第29回新協美術展で東京都知事賞を受賞するなど、写真の分野でも活躍した多才な人物であった。
評論・入門書として『俳句添削教室』(共著)、『俳句上達の早道-添削300句』などを著している。
稚魚には南湖院時代に参加した合同句集『凪』(昭和19年刊行)があるが、これについて自身が語ることはほとんどなかった。『凪』には昭和16年から18年にかけての若書きの句が収められており、戦時下をうかがわせる句も少なくない。しかし稚魚にとって『雁渡し』こそが転生のための一書であったため、『凪』は不要な句集であったと考えられる。
代表句に「投げ出せし大足拝す夜寒かな」「をのこ子の父となりける秋刀魚苦し」「春愁や身籠りの腹美しき」「入学の日の雀らよ妻と謝す」「バス降りし婆が一礼稲穂道」「寒の坂女に越され力抜け」などがある。
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- かおふいて かおほそりけり めかりどき
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蛙のめかり時
かわずのめかりどき
季節: 春(晩春) 分類: 時候(時間) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 春p.31
- むなぐらに ははうけとむる はるいちばん
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春一番
はるいちばん
季節: 春(初春) 分類: 天文(風) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 春p.40
- はるのひの ぽつりとおつる うみのくに
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春の日(日光)
はるのひ
季節: 春(三春) 分類: 天文(光) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 春p.35
- なたねづゆ まけいぬさりて われたちぬ
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菜種梅雨
なたねづゆ
季節: 春(晩春) 分類: 天文(水) -
文藝春秋 最新俳句歳時記 春p.245
- しわしわと あぜびのすすむ ゆきまかな
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雪間
ゆきま
季節: 春(初春) 分類: 地理(山野) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 春p.54
- ゆきしろの ひかりあまさず くるるなり
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雪しろ
ゆきしろ
季節: 春(初春) 分類: 地理(山野) -
平井照敏編 新歳時記 春p.63
- ゆきわりの ゆきさんらんと まちさびし
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雪割
ゆきわり
季節: 春(仲春) 分類: 人事(生活) -
文藝春秋 最新俳句歳時記 春p.239
- やみそうな あめあがらずよ さくらづけ
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桜漬
さくらづけ
季節: 春(晩春) 分類: 人事(飲食) -
虚子編 新歳時記 増訂版p.185
- かめなくや ははをあいする よわいにて
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亀鳴く
かめなく
季節: 春(晩春) 分類: 動物(爬虫類) -
平井照敏編 新歳時記 春p.227
- きさらぎな ははをさそいて ははにつき
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二月菜
きさらぎな
季節: 春(初春) 分類: 植物(アブラナ目) -
文藝春秋 最新俳句歳時記 春p.153
- おんなのめ ひらきみつむる むべのはな
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郁子の花
むべのはな
季節: 春(晩春) 分類: 植物(キンポウゲ目) -
文藝春秋 最新俳句歳時記 春p.284
- ひとごえの とおまきにして ぼたんのめ
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牡丹の芽
ぼたんのめ
季節: 春(仲春) 分類: 植物(ユキノシタ目) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 春p.158
- いきつめて はるりんどうの さくという
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春龍胆
はるりんどう
季節: 春(晩春) 分類: 植物(リンドウ目) -
角川ソフィア文庫 第4版増補 俳句歳時記 春p.200
- がくをうつ あめくらけれど ゆきまぐさ
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雪間草
ゆきまぐさ
季節: 春(仲春) 分類: 植物(総称) -
平凡社 俳句歳時記 春p.584
- ほおずきいち ゆうかぜのたつ ところかな
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鬼灯市
ほおずきいち
季節: 夏(晩夏) 分類: 人事(行事) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 夏p.127
- やまのきり おりきてぬらす ふくろづの
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袋角
ふくろづの
季節: 夏(初夏) 分類: 動物(哺乳類) -
平井照敏編 新歳時記 夏p.254
- ふなむしの かぜのかたちと なりてちる
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船虫
ふなむし
季節: 夏(三夏) 分類: 動物(甲殻類) -
角川ソフィア文庫 第4版増補 俳句歳時記 夏p.160
- すずのこや こぐらきかおの ふりかえり
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篠の子
すずのこ
季節: 夏(初夏) 分類: 植物(イネ目) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 夏p.220
- ひとさって かぜのこりけり にらのはな
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韮の花
にらのはな
季節: 夏(晩夏) 分類: 植物(キジカクシ目) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 夏p.237
- じゅうがつや けいとうのあめ しいのかぜ
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十月
じゅうがつ
季節: 秋(晩秋) 分類: 時候(暦) -
新版 角川俳句大歳時記 秋p.49
- あきのよの きおんなにちかく つまがいて
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秋の夜
あきのよ
季節: 秋(三秋) 分類: 時候(時間) -
新版 角川俳句大歳時記 秋p.56
- まつしまや ひぐれてまつの すさまじき
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冷まじ
すさまじ
季節: 秋(晩秋) 分類: 時候(感覚) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 秋p.31
- あおぎたや めのさまよえば いわばかり
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青北風
あおぎた
季節: 秋(仲秋) 分類: 天文(風) -
文藝春秋 最新俳句歳時記 秋p.218
- くさきより ひとひるがえる かりわたし
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雁渡し
かりわたし
季節: 秋(仲秋) 分類: 天文(風) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 秋p.48
- だがしやの まんじゅうやせたり さけとるむら
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鮭突
さけつき
季節: 秋(仲秋) 分類: 人事(狩猟) -
新潮文庫 新改訂版 俳諧歳時記 秋p.156
- あきひがさ そこはさんとりー びじゅつかん
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秋日傘
あきひがさ
季節: 秋(初秋) 分類: 人事(衣服) -
新版 角川俳句大歳時記 秋p.255
- びゃくこうじ むらへひとすじ のこるむし
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残る虫
のこるむし
季節: 秋(晩秋) 分類: 動物(昆虫等) -
新版 角川俳句大歳時記 秋p.529
- はなまこも まゆあげてみる こともなし
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真菰の花
まこものはな
季節: 秋(仲秋) 分類: 植物(イネ目) -
平井照敏編 新歳時記 秋p.365
- じゅずだまや いえのまわりに みずきえて
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数珠玉
じゅずだま
季節: 秋(晩秋) 分類: 植物(イネ目) -
角川ソフィア文庫 第4版増補 俳句歳時記 秋p.187
- なにごとも なきひのくれの からすうり
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烏瓜
からすうり
季節: 秋(晩秋) 分類: 植物(ウリ目) -
新版 角川俳句大歳時記 秋p.763
- やれはすの かぜいろいろに ふきにけり
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敗荷
やれはす
季節: 秋(晩秋) 分類: 植物(ヤマモガシ目) -
角川ソフィア文庫 第4版増補 俳句歳時記 秋p.166
- どくたけの ひとのけはいの うちにあり
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毒茸
どくたけ
季節: 秋(晩秋) 分類: 植物(菌類) -
新潮文庫 新改訂版 俳諧歳時記 秋p.200
- ゆきおこし とどろくまきの ひろさかな
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雪起し
ゆきおこし
季節: 冬(三冬) 分類: 天文(天空) -
ハンディ版 入門歳時記 新版p.578
- しょうねんの いきのかかりし はつごおり
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初氷
はつごおり
季節: 冬(初冬) 分類: 地理(水辺) -
新版 角川俳句大歳時記 冬p.156
- おんななく かざがきのうち われしらず
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風除
かぜよけ
季節: 冬(初冬) 分類: 人事(生活) -
平井照敏編 新歳時記 冬p.178
- かんじきの あやうきほはば たのしめる
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かんじき
かんじき
季節: 冬(三冬) 分類: 人事(衣服) -
角川ソフィア文庫 第5版増補 俳句歳時記 冬p.113
- ふゆこだち にぎりこぶしの うちあつし
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冬木立
ふゆこだち
季節: 冬(三冬) 分類: 植物(総称) -
平井照敏編 新歳時記 冬p.376
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春駒(人事)
はるこま
季節: 新年(新年) 分類: 人事(行事) -
平井照敏編 新歳時記 新年p.105
- もちばなや かたまりうごく やまのくも
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餅花
もちばな
季節: 新年(新年) 分類: 人事(生活) -
ハンディ版 入門歳時記 新版p.644
- はつすずめ くちよりひかり こぼしけり
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初雀
はつすずめ
季節: 新年(新年) 分類: 動物(鳥類) -
ハンディ版 入門歳時記 新版p.609